hero image

「ダイバー・コレクション」β版データベースについて

「ダイバー・コレクション」は東京大学東洋文化研究所の所蔵する、東アジア地域最大のアラビア文字写本群である。当コレクションはイスラーム哲学、神学、写本学を専門とし、フランクフルト大学、アムステルダム自由大学などで教鞭を執ったハンス・ダイバー教授(Prof. Hans Daiber, 1942-2024年)が中東諸国における研究活動の傍ら収集した、アラビア語を中心とした写本群であり、東洋文化研究所が1986-87年度および1994年度の2期にわたって購入した。

現在の「ダイバー・コレクション」は、コレクションⅠ(367冊)およびコレクションⅡ(153冊)で構成されている。その内容はクルアーン学、ハディース学、法学、教義学、神学、神秘主義、終末論など、多岐にわたる主題を網羅する。写本の年代は12世紀から20世紀におよび、特に18世紀に書写されたものが多数を占める。このコレクションには、12世紀中葉に書写されたアキーキー(890–91年没)の『アリーの子孫のうちで後裔を遺した者の書』の現存が確認される唯一の稿本(MS Daiber I-127)やいくつもの著者自筆本など、極めて貴重な資料が含まれている。

「ダイバー・コレクション」各コレクションのカタログはダイバー教授自らが記し、東洋文化研究所によって1988年(I)と1996年(II)に刊行されている(Catalogue of the Arabic Manuscripts in the Daiber Collection, The Documentation Center for Asian Studies, Institute of Oriental Culture, The University of Tokyo)。このカタログに所載の書誌情報に基づいて、2006年3月、「東洋文化研究所所蔵アラビア語写本データベース:ダイバー・コレクション」(https://ricasdb.ioc.u-tokyo.ac.jp/daiber/db_index.html)が公開された。データベースの情報は、カタログの翻字形式に変更を加え、一部訂正を施したものである。

このデータベースは中東地域研究者、イスラーム研究者に広く利用されてきたが、公開から20年近くを経て、メタデータが文字列のみの独自規格であること、画像単位でのメタデータが不在であること、低解像度の二値画像(コレクションⅡ)であることなど、現代の学術的および技術的基準を満たす上で大幅な改善の余地が見受けられるようになった。またコレクションを構成する写本の多くは合本であり、史料学、書誌学的な観点からも、より高度な活用を容易とするようなインフラの開発が求められている。

そこで2024年度、東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)によって、データベースの再構築プロジェクトが始動することとなった。2024年度から第三期を迎えたU-PARLでは、アジア研究図書館の研究ハブ機能拡充の一環として、東京大学内における学術資源のデジタル化公開や研究情報資源の管理・提供に関する研究を進めている。

U-PARLでは、デジタルアーカイブ構築における基本方針として、多様なステークホルダーが提供者と利用者の区分を越えて協働し、ともに「育てる」アーカイブの実現を掲げている。この方針のもと、「ダイバー・コレクション・データベース再構築事業」は、コレクションを所蔵する東洋文化研究所、運用基盤とアクセス環境整備を行なうU-PARL、そしてデータベースの構築を担う東京大学大学院人文社会系研究科のリサーチエンジニア・チームからなる協働型のコミュニティによって推進されている。

本β版データベースは、相互運用性の高いメタデータ仕様や転写方法の改良などをめぐり、多様な関係者の意見や提案を受け入れ、修正・更新を続けながら発展する「育てるアーカイブ」として機能する。このプラットフォームは、従来のデジタルアーカイブが抱えていた課題、すなわち所蔵者・利用者・作成者の分断や、完成後の変更の困難さといった問題を克服するため、利用者が直接参画しながらその価値を高めていく仕組みを備えている。「再構築事業」ではこの「育てる」β版データベースを、東京大学デジタルアーカイブポータルの「アジア研究図書館デジタルコレクション」を通じて全国的なポータルサイトに接続し、アクセシビリティとユーザビリティを向上させることで、アラビア文字写本研究に新たな基盤を提供すること、また研究情報資源の管理・提供におけるモデルケースとしてU-PARLのミッションを体現し、学術研究に貢献することを目指している。

これまでの「ダイバー・コレクション再構築事業」は以下のメンバー(“Team Daiber”)によって担われてきた。

東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)
太田絵里奈(特任助教、西アジア地域担当)
一色大悟(特任准教授、U-PARL副部門長、URA)
澤裕章(特任専門職員、メタデータ作成)
東京大学大学院人文社会系研究科
大向一輝(准教授、U-PARL兼務教員)
阿達藍留(博士課程、β版データベース構築)
東京大学東洋文化研究所
森本一夫(教授、アジア研究図書館研究開発部門(RASARL)兼務教員)

本データベースの構築プロセスは、「ダイバー・コレクション」および「アーカイブ構築」に関心を持つすべての方々に開かれている。アラビア文字写本資料のみならず、Society 5.0を見据えた協働型のアーカイブの可能性に共感してくださる多くの方々とともに、この「育てるアーカイブ」プロジェクトを形作っていきたいと願っている。

2025年6月

東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門

太田絵里奈(西アジア地域担当)

https://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/

U-PARLでは、デジタルアーカイブ構築の基本方針として、様々なステークホルダーが関与することで「育てる」、協働型のアーカイブを目指しています。メタデータの修正、β版データベースに関するご意見、その他お気づきの点がございましたら、題名を「ダイバー・コレクションについて」とし、こちらのフォームよりお知らせください。 https://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/contact